今年はベートーヴェンの生誕250年にあたり、日本でも「フィデリオ」の公演が9月の3、4、5、6日と新国立劇場オペラハウスで開催されました。二期会、新国立劇場、藤原歌劇団の3団体共催するプロジェクトです。
もちろんソーシャル・ディスタンスを守っての演奏会で、私たちは6日の最終日に出かけました。

ベートーヴェン/歌劇「フィデリオ」
 ドン・フェルナンド/小森輝彦
 ドン・ピツァロ/友清崇
 フロレスタン/小原啓楼
 レオノーレ/木下美穂子
 ロッコ/山下浩司
 マルツェリーナ/愛もも胡
 ヤッキーノ/菅野敦
 囚人1/森田有生
 囚人2/岸本大
 管弦楽/東京フィルハーモニー交響楽団
 合唱/二期会合唱団、新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部
 指揮/大植英次
 演出/深作健太
 装置/松井るみ
 照明/喜多村貴
 映像/栗山聡之

「フィデリオ」は、本来ですとフランス革命の発端となった、バスチーユ牢獄襲撃事件から4〜5年たった頃にこのオペラのもとの「救出オペラ」が流行っていて、いろんな作曲家がこの台本に音楽を付けていったのですが、ベートーヴェンは観念的な音楽を付けていった。
その上で、深作健太監督の「フィデリオ」は画期的な読み替えをしており、1945年戦後から2020年現代まで戦後75年を描いていて、ベートーヴェンの時代から遥かに離れた現代の私たちの壮大な物語となっている。
フィデリオことレオノーレは、〝元祖、女性は太陽だった〟の言葉のように時代を超えて、夫を探し続ける強い女性として、四つの時代に登場する四つの壁と闘ってゆくことになります。
ナチス強制収容所の鉄条網と「死の壁」「ベルリンの壁」「パレスチナの分離壁」トランプ政権下での「アメリカ国境の壁」
舞台上方に「Albeit macht Frei?」(働けば自由が得られる)というプレートが掲げられている。
そして序曲は通常演奏される「フィデリオ」でなくて「レオノーレ」序曲3番から始まり、最後は舞台の奥まで全ての壁を取り払って、楽屋裏まで見せる広い空間が、戦争終結記念式典に読みかえられ、車椅子に乗ったフロレスタンをレオノーレが押して登場し、合唱団全員が正装に変わってしかもソーシャルディスタンスを守って並び、最後の合唱を歌い上げられると紗幕が取り払われ客席と舞台の間の「壁」が取り払われる。
フィデリオ(レオノーレ)役の木下美穂子は、真っ赤なスーツで堂々と歌いあげます。
フロレスタン役の小原啓楼も第一声が素晴らしく大きな声を張り上げ、コロナ禍で、たまったエネルギーが爆発するかのような熱気のある舞台でした。
こんな「フィデリオ」は初めて、戦後は私たちが生きてきた道でもあるので、自分の身になって考えさせられるよい舞台だったと思います。
空は秋の空、渋谷区の〝ハチ公バス〟が行き交う山手通りを車で帰りました。

フィデリオ
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