夢二の絵は、歌劇「カルメン」ハバネラの歌表紙。 その十八 寂しい冬の日は暮れて、やわらかな春の光がまた武蔵野にめぐって来た。 ちょうど三月の末、麦酒(ビール)会社の岡につづいた桜の莟(つぼみ)が綻(ほころ)びそめたころ、
白柳秀湖「駅夫日記」その17
夢二の絵は、雑誌「新少女」さし絵。 小説は、恋について・・・。 その十七 その年も暮れて私は十九歳の春を迎えた。 停車場(ステーション)ではこのごろ鉄の火鉢に火を山のようにおこして、硝子(がらす)窓 を閉めきった狭い部屋
白柳秀湖「駅夫日記」その16
夢二の絵は、画集「旅の巻」カバー。 小説は、目黒不動、桐ヶ谷の火葬場、碑文谷、蛇窪村、葡萄鼠色、五位鷺。 その十六 社宅を辞して戸外(そと)に出ると夜は更(ふ)けて月の光は真昼のようである。私は長峰の下宿に帰らず、そのま
「駅夫日記」をたどって
「駅夫日記」が15まで来ました。 中休みとして、目黒駅~行人坂~雅叙園~権之助坂~大鳥神社~目黒不動まで写真でたどってみます。 目黒駅~行人坂~大圓寺~雅叙園 明和9年(1772)2月29日行人坂大圓寺から
白柳秀湖「駅夫日記」その15
夢二の絵は、雑誌「若草」。 その十五 その夜駅長は茶を啜(すす)りながら、この間プラットホームで蘆(ろ)工学士を突き倒した小林浩平の身の上話をしてくれた、私がただ学問とか栄誉とかいうはかないうつし世の虚栄を慕うて、現実の
藤
5月4日(日) 今日は、近くの品川区民公園まで藤を見に行く。 あいにくの五月雨ですが、品川水族館には、長い行列が出来ています。 濃いピンクと白のシャクナゲ、シャガ、黄色の藤に似たのはキングサリ、白い藤に似たのはニセアカシ
白柳秀湖「駅夫日記」その14
夢二の絵は、「鴨川情話」表紙。 小説は、私(藤岡)の身の上話。 その十四 私の傷はもう大かた癒(い)えた、次の月曜日あたりから出勤しようと思うて、午後駅長の宅(うち)を訪ねて見た。細君が独りで板塀の外で張り物をしていたが
白柳秀湖「駅夫日記」その13
夢二は、「婦人グラフ」表紙。 小説は、唐人髷、銘仙の着物、浅黄色の帯、欝金色の薔薇釵(ばらかざし)の高谷千代子。 粋な鳥打帽子、紬の飛白(かすり)、唐縮緬の兵児帯(へこおび)の大槻芳雄。 その十三 栗の林に秋の日のかすか
白柳秀湖「駅夫日記」その12
夢二の絵は、「婦人グラフ」表紙。 その十二 「今度複線工事のことについてちょっと用事が出来てここまでやって来たのです。プラットホームで足立さんに会って挨拶をしていると、今の一件です。 駅長さんが飛び出したもんですから、私
白柳秀湖「駅夫日記」その11
夢二の絵は、「暮笛」表紙。 小説は、法師蝉、コスモス。 その十一 私はそのまま駅長の社宅に連れて行かれて、南向きの縁側に腰を下すと、駅長の細君が忙わしく立ち働いていろいろ親切に手を尽してくれる。 そこへ罷職軍医の大槻延貴
白柳秀湖「駅夫日記」その10
夢二の絵は、「婦人グラフ」表紙。 小説は、エビスビール、百舌鳥(もず)、櫨(はぜ)。 その十 雨がやむと快晴が来た。 シットリと濡れた尾花が、花やかな朝日に照りそうて、冷めたい秋風が一種言いしれぬ季節の香を送って来る。崖
白柳秀湖「駅夫日記」その9
夢二の絵は、童謡「凧」の装幀原画。 小説は、麻布十番 白金。 その九 見れば根っから乞食(こじき)の児(こ)でもないようであるのに、孤児(みなしご)ででもあるのか、何という哀れな姿だろう。 「おい、冷めたいだろう、そんな