お正月気分はまだまだ続いていますが、早速グラインドボーン・アンコール ヘンデルの「サウル」から観てゆきましょう。
昨年末ウィーン国立歌劇場の「ドン・ジョバンニ」(20021年12月5日)は、オーストリアのロックダウンに伴い、無料で放映してくれました。その時の演出家で奇才バリー・コスキーと舞台装置と衣装カトリン・レア・ターグに目をつけていたのですが、この「サウル」でも演出と衣装を担当しています。そしてなんとこのオペラの重要な人物ダビデ役でカウンターテナーのイェスティン・デイヴィスは2016年に鵠沼サロンコンサートに出演してくれています。ロンドンから1時間のグラインドボーン・オペラ・ハウスと東京から1時間の鵠沼サロンコンサートはなんの関係もありませんが、イェスティン・デイヴィスがこんなに有名なカウンターテナーだったとは夢にも思っていませんでした。
ヘンデル/オラトリオ「サウル」(2015年8月22日公演)
サウル(イスラエル王)・サムエルの霊/クリストファー・パーヴス Christopher Purves
ダビデ/イェスティン・デイヴィス Iestyn Davies
メラブ(サウルの長女)/ルーシー・クロウ Lucy Crowe
ミカル(サウルの次女)/ソフィー・ビーヴァン Sophie Bevan
ヨナタン(サウルの息子)/ポール・アップルビー Paul Appleby
アブネル(イスラエルの将軍)・司祭・アマレク人・ドエグ(サウルの家臣)/ベンジャミン・ヒューレット Benjamin Hulett
エンドルの魔女/ジョン・グレアム=ホール John Graham-Hall
指揮/アイヴァー・ボルトン Ivor Bolton
演出/バリー・コスキー Barrie Kosky
舞台装置/カトリン・レア・ターグ Katrin Lea Tag
振付/オットー・ピヒラー Otto Pichler
照明/ヨアヒム・クライン Joachim Klein
管弦楽/オーケストラ・オブ・ジ・エイジ・オブ・エンライトンメント
リーダー/アリソン・バリー Alison Bury
合唱/グラインドボーン合唱団(合唱指揮/ジェレミー・パインズ Jeremy Bines)
「サウル」は、1738年にゲオルク・フリードリッヒ・ヘンデル(1685-1759)によって作曲されたオラトリオ。
紀元前11世紀頃イスラエル(ヘブライ)の王サウル(クリストファー・パーヴス)は、ペリシテ人との戦いの最中、ペリシテ人のゴリアテという2mを超える大男に手を焼いていた。小さなダヴィデ(イェスティン・デイヴィス)が、ゴリアテを倒しその首を切り落とすとペリシテ軍は総崩れになった。その首が上の写真に出てくる生々しい大きな首です。奇才と言われている今最も忙しい演出家バリー・コスキーとカトリン・レア・ターグが演出した、大きくてリアルな生々し首が最初にアップで撮されるのが、最初にびっくりさせられるシーン、そしてサウルが使う武器は槍ではなくて、ゴム鉄砲と石なのが不思議なところです。それとエンドルの魔女ジョン・グレアム=ホールは、20年前くらい前グラインドボーンのレーザーディスク全集の中のブリテン「アルバート・ヘリング」の主役を歌っていた歌手だということもわかって2度も3度も驚かされました。ほとんどが英国の歌手で揃えた「サウル」公演ですね。
さて物語に戻ります、“サウルはペリシテ人との戦いで1000人の敵を殺し、ダビデは10000人の敵を殺した”というイスラエル人による歌を聞いてサウルは怒り狂い、宥めるがサウルの怒りは治らず、(このときのサウル役のクリストファー・パークスの演技は滅茶苦茶面白い)ダビデを殺す様に息子のヨナタンらに頼む。サウルの次女ミカルはそんなダビデに心を寄せ、ダビデを逃す。
神から見放されたサウルは、魔女から預言者サムエルの霊を呼び出してもらうが、神はイスラエルをサウルから取り上げてダビデに渡したのだと答え、予言通りギルボア山のペリシテ人との戦いでサウルとヨナタンは死んでしまう。
司祭は民衆の嘆きを止めさせ、サウルが失った王国はダビデが取り戻すであろうと宣言する。
そしてこのオペラの中で唯一化粧をしていないダビデ役のイェスティン・デイヴィスが王になるというわけです。
このオペラの功労者はやはりサウル役のクリストファー・パーヴス、怒りくるった演技がすごい面白い、そして変態!
バリー・コスキーの演出は洗練されて、カラフル、音楽に合わせて踊る簡単なダンスが初めから終わりまで続き退屈することがありません、この辺は同じヘンデルのオペラ「ジュリオ・チェーザレ」演出デイヴィッド・マグヴィカーと似ていますが、もっと奇妙で面白いかも。演奏後の大拍手の後はオーケストラピットのリュートの楽器にスポットライトが当たりました。皆様もグラインドボーン・アンコールの権利を取得して楽しんでみてはいかがでしょう。